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アウトドア環境教育

山本 幹彦(当別エコロジカルコミュニティー代表)

わたしたちの脳の中で起こっていること

 

 都市化によって自然や地域から離れてしまって、関わりや関係性が希薄な中で暮らしていますよね。レイチェル・カーソンが言ったこととは逆で、頭で理解することが多くなりましたね。 感覚を働かせるようなことが少なくなりました。自由な時間が無くなって、いろんなところに遊びが少なくなりましたよね。身体を動かす遊びもそうですし、何かいい間合いのことを「遊び」って言いますよね。それが非常に少なくなりましたね。それよりも効率効率ですよね。もっともっとって。

 そんな中でだんだんストレスが溜まってくる。攻撃的になったり、免疫力が低下し、落ち込みやすくなったりする。一人でものを抱え込んだり、いろんな状況を放棄してしまったりする。それを大脳生理学から見れば、ストレスが溜まり自分を守ろうすると、脳の中では脳幹の部分ばかりが集中して働くようになると言われています。文明が発達して人間がいろんな物事を考えるようになって、考えるときは大脳の中の前頭前野と言われる部分が働くんですが、ストレスがかかると脳幹ばかりでこの前頭前野が働かないんです。今の現代人にはそ

ういう特徴があるって言うんです。そんな中で教育なんてできるのかっていう話なんですね。

 

 私たちのプログラムでツリークライミングをよくやります。そんなとき子どもたちはもうワクワクしながら、ロープを使って必死に上まで登って「やった、ここまで登れた」って。降りてきたらみんなで「やったね。」ってスキンシップをとって触れあったりする。そういった時には、大脳の中でドーパミンやオキシトシンという脳内物質がどんどん出てるって言うんですね。 子どもたちの頭の中はスパークしっぱなしで、それが神経回路になって大脳を育てていく。

 要するに、ストレスがかかった状態で脳幹しか働かないのではなくて、なにか好奇心でワクワクしながら楽しいことをして、そこで達成感を感じて、「やったね」って抱き合ったりすると、どんどん大脳が育っていく。前頭前野の働きっていうのは、他人の気持ちがわかるとか、人をいたわるとか、もう少し長期的な視野で物事を見ることができるとか、そういう特徴があるみたいなんですね。

 最近は大脳生理学的に、自然体験をすると脳の中でこういうことが起こって大脳を育てていくんだと言われています。達成感や仲間とのふれあいといったものはもちろん自然の中だけで起こるものじゃないですけど、よりそれが起こりやすい環境なんじゃないかということなんですね。そうじゃないですか。野外に行くとワクワクしませんか。子どもたちが好奇心を持って楽しめるような、そういう気持ちを学校の教育でも育てていけばいいんじゃないか。それがアウトドア環境教育なんですね。非常に単純な話なんです。

 やっぱりアウトドアっていうと、キャンプをしたりカヌーをしたりというイメージがあるんですけれど、もともと英語で書くと「Out-door」なんです。ドアで区切られたところを開けましょうよ、このドアを開けるといろんな可能性がありますよ、ということなんですね。

 アウトドア環境教育はスウェーデンで始まったオリジナルのもので、それは自然のことを学ぶんじゃない。「Learning through Landscape」だと言うんですね。「ランドスケープを通した学び」。ランドスケープって何だろう。日本語に訳すと景色や風景という意味になりますが、そうではなくて、その人にとっての風景や自然、それを含めた「環境」というイメージなんですね。環境というのはそれだけが単体としてあるのではなくて、人が関わることではじめて、その人を取り巻く「環境」になるという意味があるんです。そういった主観的な、一人ひとりの学びの環境をもうちょっと考えたらどうだろう。教室の中だけで学ぶって誰が決めたの、っていう話なんですね。

 

 キーワードは「楽しい」ということです。ドアを開けて外に出て、なにか楽しいと感じる。物事を論理的に考える分野だけで学ぶのではなく、感覚的な部分も一緒に働かせる。うまく脳全体を使いましょう、その方が学びは深まるんです。ですからすべての時間で野外に出るんじゃなくて、野外で感覚を使うということと、教室の中で教科書で学ぶこと。その2つをうまく結び合わせて、私たちの学びを考えていきましょうということなんです。

 そういう意味で、アウトドア環境教育を一言で言うと「広い教室」なんですね。教室の中でももちろん学べるんですが、教室の中も外も踏まえて、人は一体どういうときに学んでいるのかっていうことですよね。ただ単に知識を学ぶっていう学び方じゃなくて、その人の生活を豊かにするための学び。それって一体なんだろう。

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