地域に根ざしたネイチャーセンターの活かし方・育て方
「心に自然は必要か? 心の発達と自然体験・環境教育」札幌ワークショップ
ネイチャーセンターとは自然と人をつなぐ土地
山本 ここからは、皆さんからいただいた質問をもとに、ゲストのみなさんとディスカッションをしていきたいと思います。
参加者 ネイチャーセンターをつくるきっかけとなったターニングポイントはなんですか?
キャロリン 個人的なことをお話しすれば、始めた当初は私は小さな子どもたちの母親で、そして環境問題に対して危機感を持っていて、子どもたちの将来のために何か出来ることはないかと思っていました。私が出来るようなことは小さなことかもしれないけれど、森林破壊や原子力を止めることはできないかもしれないけれど、それは生活に身近な、地域に根ざしたものだと思っていたんです。私は環境教育についてのキャリアや学位は持っていませんでしたが、たくさんの人たちからのアドバイスによって学んでいきました。始めはすべてのことがわかっていたわけではなく、何も知らなかったとさえ思います。それでも進んで私を助けてくれる仲間がたくさんいたのです。
シボロネイチャーセンターは今年(2013年)で25周年を迎えます。始めた当初のことを少しお話しすると、最初は数人の友人とボランティアと共に活動していました。次第に学校の先生もボランティアとして参加してくれるようになり、徐々に学校のクラスがネイチャーセンターに子どもたちを送り出してくれるようになりました。そうして少しずつ私たちの活動が人々に認知され、好んで協力してくれるようになり、ネイチャーセンターは成長を続けました。
参加者 公立の学校では、どのようにして子どもたちの自然体験を増やしていけばいいのでしょうか。
キャロリン アメリカのいくつかの小学校では、校庭に自然のエリアを作っています。コンクリートをはがして、遊具の代わりに子どもたちが遊べる小さな池や畑などを作っているのです。そういった身近な自然が必要になってくると思います。
山本 なかなかその辺の仕組みはアメリカと日本で違うと思いますが、日本の学校はどうでしょうか。
小澤 日本の学校教育には、小学校1・2年生に、理科と社会を一緒にしたような生活科という授業があるんですね。そして3年生になると総合的な学習の時間がある。その中で校外学習として外へ出たりもしています。ですから学校教育では、案外ばらばらに行われているようで、どういうふうに外で活動するかということが計画されてきたんですね。
兵庫県では、小学校3年生になると年3回の自然体験、5年生には自然学校での5泊6日の宿泊学習が組み込まれています。それを地域のNPOがサポートしています。そしてその後、中学校に進むとトライアルウィークとして社会体験をするんですね。その後のデータなどを見ていても、そういった取り組みは非常にいい成果が出ています。やっぱり子どもの発達は連動していて、自然に触れることは重要だということなんですね。
山本 そこが北海道ではなかなかうまくいかないですね。ちょっとツッコミなんですけど。
城後 札幌市では、5年生になると1泊2日の自然体験がほとんどの学校で実施されているんですね。でもやっぱり1週間や2週間程度の体験学習を確立していかないと、1泊2日じゃ何もならないんじゃないかと思います。それから教員養成系の大学にはフィールド研究というものがあるんですが、体験型のフィールド研究というよりは学校ボランティア型のものが多くて、地域のNPOを野外活動をしている団体へのインターンも含めて指導者養成をしていかないと、体験学習のいい指導者が学校教育の中で育っていかないんじゃないかといつも思っています。学力や体力も含めての低下が北海道では問題視されていますが、その両極ではなく、もう少し行間の力をつけていくには教室の中だけではダメだろうと思います。そういったプログラムをどのようにして開発していくのか、大学のカリキュラムそのものを変えていかないといい教育はできないと思っています。
参加者 私は公立学校で教えている教師です。私の食わすにはADHDのような症状を持つ子供がいて、彼らを自然の中に連れていきたいのですが、どうしたらいいでしょうか。
ブレント ADHDの子どもたちは多動性障害と呼ばれ、衝動をコントロールする部分に発達障害が見られます。そのためすぐに興奮してしまい、問題を起こしてしまいがちです。問題は興奮しすぎてしまうことです。他の子どもたちは、どうすればいいのかわからなくなってしまう。
彼らを自然の中に連れて行くときには、なにか興味を引くような投げかけをする必要があります。例えば虫眼鏡を手渡して、「隠れた宇宙を探してきてごらん」って言ったりする。そうやって想像力や好奇心を引き出すことが必要なんですね。逆に困難なテストや課題などを与えると、たちまち大きな問題を起こしてしまったりする。だから私たちは、彼らには「Bag of Trick」(不思議なトリックの詰まったカバン)が必要なんだ、という言い方をしています。
最初は自然の中に入ることを怖がっている子どももいます。でもそれはとても大事なことで、きちんと向き合わなければいけない恐怖でもあります。土は汚いものだと思っていたり、虫は攻撃してくると思っている。そういった子は、不安に直面して頭の中のチャンネルを切り替える必要があります。いろんなきっかけを通して、自分の恐怖心に目を向けてくことが必要です。恐怖心に直面して、それがもっと大きくなっていく場合もありますが、そういった時には「グループのみんなと一緒においで。カエルの卵を触って取らなくてもいいから、それを数えるのを手伝って。」と言ったりするんですね。
参加者 アメリカの子どもたちは、だんだん弱々しくなっているんでしょうか。
ブレント アメリカという最も工業的な国では、私たちはいまだにアニマルで、子どもたちは次第に弱々しくなっています。衝動に支配され、ものごとを短期的に捉え、つまらない欲望を追い求めてしまっています。脳の一部しか使っていない。そこに創造性のようなものは何も起こらないんですね。
しかし私たちは、将来を見通す力を脳の中にもっているはずなのです。コンピューターをつかって予測を立てることが出来れば、自分たちの行いが未来にどんな影響を与えるのかを考えることが出来る。そうしなければ、私たちの行いはどんどん原始的になっていくでしょう。それなのに、優秀な大学の学生でさえ、車や冷蔵庫、テレビや洗濯機を追い求めています。
大学が持つ機能は、地域のコミュニティの未来をつくっていくことだと思います。人間を含めたいくつかの生物が、自分たちの王国をつくっては滅びていきました。これからの課題は、今使っているのとは別の新しい脳を使うことなのです。
山本 私たちのイメージだと、「ネイチャーセンター」って聞くと、やっぱり建物があって、そこに人がやって来る場所を想像するんじゃないかと思います。でも翻訳しながらやり取りをしていると、ネイチャーセンターとは建物のことではなくて、土地のことなんだ。自然と人をつなぐ「Center:中心」なんだということを聞いてちょっと驚きでした。だから、ネイチャーセンターという言葉をそのまま使うと、うまく伝わらないんじゃないかとも思います。
ブレント ネイチャーセンターはどこにでもつくることが出来ます。開発によって水が溢れてしまっているとこでも、かえってネイチャーセンターの最適な場所なのです。私たちは全米のネイチャーセンターを調査して、「The Nature Center Book」にまとめました。その中には、ニューメキシコの白い砂漠の中に建つ、トイレを改装したネイチャーセンターだってあります。素晴らしい自然である必要は全くないのです。
山本 今日はネイチャーセンターの可能性について、また子どもの発達や成長について、とても興味深いお話を聞くことが出来ました。どうもありがとうございました。
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主催:当別エコロジカルコミュニティー
協力:北海道教育大学札幌校