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地域に根ざしたネイチャーセンターの活かし方・育て方
「心に自然は必要か? 心の発達と自然体験・環境教育」札幌ワークショップ

《ゲスト》

鵜飼 渉さん (札幌医科大学医学部神経精神科医学博士)

城後 豊さん (北海道教育大学理事)

小澤 紀美子さん (東京学芸大学名誉教授/東海大学大学院客員教授)

キャロリン・チップマン・エヴァンスさん (シボロネイチャーセンター・エグゼクティブディレクター)

ブレント・エヴァンスさん (公認ソーシャルワーカー/心理療法士)

 

《進行》

山本 幹彦 (当別エコロジカルコミュニティー代表)

 

《通訳》

森田 靖子さん (当別町キッズアカデミーえいごくらぶ講師)

伊藤 伸哉さん (青山TGセミナー代表)

心の豊かさに自然は必要なのでしょうか。

アメリカ・テキサス州シボロネイチャーセンターには、元気な子どもから心にダメージを抱えた子どもまで、様々な子どもたちが自然と親しめるような豊かな環境があり、そのためのたくさんのプログラムが用意されています。小さい頃の自然の中での体験が、子どもたちのこころとからだの発達にどんな影響を与えていくのでしょうか。

シボロネイチャーセンターの取り組みの様子を踏まえて、地域に根ざしたネイチャーセンターの可能性を精神科学の視点から、また教育の視点から、それぞれの分野の専門家のお話しを通して見つめていくワークショップです。

A Hopeful Story」希望のお話

 

山本 幹彦 ようこそお越しいただきましてありがとうございます。私は北海道の当別町で、当別エコロジカルコミュニティーという環境教育やまちづくりの活動を行う団体の代表をしています。

北海道には大自然がたくさんあるのですが、近くの自然で子どもたちが遊んでいる姿ってあんまり見ないですよね。学校の授業の一環として自然の中での体験を行っているところもあまりない。それをなんとかしないと、いくら環境教育だと言っても足下が空洞化してしまうんじゃないかなと、ずっと懸念を持ちながら環境教育に取り組んで20数年になります。

​2012年の3月に、「ネイチャーセンター あなたのまちの自然を守り楽しむために」という本を出版しました。翻訳のきっかけは、カナダを旅行していた時、この本の原著「The Nature Center Book」をたまたま見つけた時でした。あまり英語は堪能じゃないんですけれど、なんとなくパッと見て、これは是非日本で紹介したいと思ったんですね。それから著者のエヴァンスさんご夫妻に連絡を取って、会いに行ってもいいか、とお願いして押しかけて行って、そこで翻訳の許可をいただきました。そういった経緯で10年かかって、日本語での出版、そして日本でのワークショップが実現しました。

 

それではさっそく、お2人からお話しいただきたいと思います。

 

キャロリン・エヴァンス これから私がお話しするのは「A Hopeful Story」、小さなことでも大きなインパクトを与えることが出来るという希望のお話です。これは私にとっての希望でもあります。

32歳の時、私は2人の小さな子どもの母親でした。心配性で環境問題に対して危機感を持っていて、何か出来ることはないかと思い、シボロネイチャーセンターを始めました。当時はここまで大きくなるとは思っていませんでしたが、しかし同時に、社会に対して何らかのインパクトを与えることが出来ると確信していました。

それから25年が過ぎ、職員やボランティアに支えらながら、ネイチャーセンターは大きく成長しました。今では小学校の課外授業として年間4万5千人の子どもたちがネイチャーセンターで学び、他にもたくさんの人たちが自然と良い関係を結ぶための150ものプログラムが実施されています。小さな赤ちゃんから小学校のクラス、サマーキャンプや家族を対象にしたプログラムなど、外に出て自然の中で遊べるプログラムを実施しています。体が不自由でネイチャーセンターに来られない子どもたちには、直接彼らの学校の教室に出向いてプログラムを行い、学校の先生やボランティアには、実践でのトレーニングと学びの場を提供しています。私たちが目指すのは、子どもたちが自然と親しむこと。また、子どもだけでなく大人にとっても、自然の中で遊び、学ぶことが大切だと思っています。

ネイチャーセンターのプログラムは、自然にあまり興味がない人でも楽しみを見つけることが出来るものばかりです。例えば彼らはバードウォッチングに興味がなくても、音楽は好きかもしれません。そのためコンサートなどのイベントを通して、自然に目を向けるためのきっかけづくりをしています。

 

私たちはこの豊かな土地を守っていけるパートナーと一緒に活動しています。政府や行政からは資金を受け取らず、個人や企業、基金などとパートナーシップを組み、彼らの協力や寄付によって運営しています。ボランティアの役割はネイチャーセンターにとってとても重要で、彼らの協力なしでは成り立ちません。建物の修復や掃除、子どもたちへの教育に至るまで、彼らの助けが及ぶ範囲はとても大きいのです。自分たちだけではできないことも、パートナーと一緒に取り組めば可能になるのです。

私は、土地は私たちの宝だということを信じています。しかしその宝が急速に失われつつあります。私たちの社会はものすごい速さで成長を続け、道路は拡張され、商業的な開発が土地を浸食しています。なのに政府は土地を守るために何もしない。じゃあ私たちがやろうと、この活動がスタートしたのです。この豊かな土地を守ることが出来るのは、ネイチャーセンターに希望を持つ人どうしのつながりだと思います。私たちはその人たちと共に、楽しみながら仕事をしています。

シボロネイチャーセンターでは、市民農園のプロジェクトが進行中です。(現在 Cibolo Nature Center and Farmとして活動中)これからの時代、持続的に生きるためのスキルとして有機農園が重要な役割を占めると思っています。

 

 

 

自然と関わることは倫理観を身につけること

 

山本 次はブレントさんからのお話です。シボロというのは川の名前で、昔のインディアンの言葉でバッファローを意味するそうですね。ブレントさんはネイチャーセンターの活動の傍ら、自身は心のケアに関わる仕事をしています。

 

ブレント・エヴァンス Howdy! 私は、精神的に不安定な子どもたちをケアするソーシャルワーカーです。自閉症やそう鬱、多動など、心の不安定さを抱えた子どもをケアしていますが、彼らの振る舞いは幼く、本能的で、衝動的なものです。科学的に言えば、それは脳の後ろの部分の働きによる行動といえます。人間の脳は依然としてこの部分がよく使われていて、それは衝動をつかさどり、その働きは時に倫理的な思考を妨げるものでもあります。衝動的思考と倫理的思考は常に緊張関係にあり、互いに引っ張り合っていますが、しかしながら、多くの人びとは衝動的思考にコントロールされてしまいがちです。彼らは一時的な満足感に満たされているのです。その結果、倫理的思考が衝動をコントロールできず、それは時に自己をおとしめることにもつながってしまいます。

私が関心を持っていることは、人間のあり方や振る舞いといったものも、ある状況では皆同じような働きをしてしまうということ。人はストレス状態にあると、原始的で幼稚な振る舞いをしてしまうのです。例えば、霊長類のような動物を動物園などの抑圧された環境におくと、特徴的な5つの変化が見られます。攻撃的になり、落ち込みやすく、ひとりでものを抱え込み、育児放棄や虐待をするようになり、病気に対する免疫力が低下する、といった特徴です。皆さんは同じような経験はないでしょうか。また、刑務所の中の囚人に置き換えるとどうでしょうか。

 

しかしこれはとても興味深いのですが、自閉症など心にダメージを抱えた子どもたちを自然の中に連れていくと、その問題は和らぐのです。それは医学的に説明できる何かがあるのかもしれませんが、私は経験としてそのことを知っています。自然と触れることは、子どもたちの心を満たす上でとても重要なことなのです。自然の中で詩を読んだり、虫眼鏡を持って森の中を歩いたり、小川で水をすくってみたりすること。そうやって自然に目を向ける機会を与えてあげると、今度は自分から自然に入っていくようになります。そして次第に自分の問題に向き合っていくようになるのです。自然の中で少しの時間を過ごすだけでも、彼らが抱える問題は小さくなっていくはずです。

ネイチャーセンターの活動は、多くの人たちが自然と関わり、その中で自分の行いが未来にどんな影響を与えるのかという倫理観を身につけていけるものだと確信しています。空調のきいたボックスの中で生活している子どもたちは、自然の中に出ていくこともなく、自分の行動が道環境に影響を与えるのかを想像できないのです。だから私は、ネイチャーセンターの活動を通して、子どもや大人に自然と関わる経験を与えることが大切だと思っています。それは癒しの経験でもあり、私はそのようなチャンスに関わることが出来てとても嬉しく思います。

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