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地域に根ざしたネイチャーセンターの活かし方・育て方
「ネイチャーセンターとコミュニティデザイン」京都ワークショップ

《ゲスト》

キャロリン・チップマン・エヴァンスさん (シボロネイチャーセンター・エグゼクティブディレクター)

ブレント・エヴァンスさん (公認ソーシャルワーカー/心理療法士)

山崎 亮さん (株式会社Studio-L代表/京都造形芸術大学芸術学部空間演出デザイン学科教授)

梶田 真章さん (法然院貫主)

山本 幹彦(当別エコロジカルコミュニティー代表)

 

《進行》

山口 洋典さん (立命館大学共通教育推進機構准教授/浄土宗應典院主幹)

《通訳》

桑名 恵さん (立命館大学共通教育推進機構准教授)

 

《会場》法然院(京都市左京区)

「地域に根ざしたネイチャーセンター」とは、どのようなものなのでしょうか。

国立公園や森林公園などに行くと、多くの場合そこにはビジターセンターがあり、ナチュラリストや自然の専門家がいて、花の名前や鳥の名前、その特徴など、周囲の環境について詳しく紹介されています。それはすごく大切なことなのですが、しかし一般の人たち、いわゆる「自然派」じゃない人たちには少し敷居が高く、人々の生活ともどこか切り離された印象を受けてしまいがちです。

アメリカテキサス州でシボロネイチャーセンターを運営しているエヴァンス夫妻は、自然が好きな人もそうでない人も一緒になって楽しめる場所をつくっています。森や川に囲まれた空間でコンサートをしたり、野菜を育てたり、コミュニティのミーティングをしたり。そしてふと外に目を向けると自然が気持ちいいねっていうように、地域のコミュニティセンターのような役割がネイチャーセンターにはあるのです。

 

​そういった地域に根ざしたネイチャーセンターの役割や可能性を、ゲストの方々のお話しを通じて、地域のコミュニティの視点から見つめていきます。会場となった京都のお寺、法然院の方丈には、鹿威しの心地よい音が響きます。

地域に根ざした「場」としてのネイチャーセンター

 

山口 洋典 ワークショップが始まるまでの時間、皆さんにインスタントカメラをお渡しして、この場所の気に入った風景を写真に撮ってきてもらいました。なぜこんなことをしたかというと、日常と非日常を結び合わせるための、その間の空間と時間を過ごして頂きたいなと思いました。普段何気なく思っていることを、もう一度感じてもらうこと。「センス・オブ・ワンダー」という言葉がありますが、そんなようなことが出来ればと思いました。それぞれが同じ風景を切り取っても、違う物語がそこにはあると思います。同じ風景であっても、あるいは同じ空間にいても、どういう場を切り取ってきたのか、是非ご関心を向けてください。

エヴァンスご夫妻の著書「The Nature Center Book」が訴えかけているものは、施設としてのネイチャーセンターではなく、「場」としての、つまりは単に「箱」だけじゃなくて、そこにある「モノや出来事」を含めたネイチャーセンターという概念についてまとめられています。今日のこのワークショップは、遠いアメリカ・テキサスのことを話しているのではなくて、あくまで私たちの日常の暮らしや仕事を通じて何かを生み出していくような、気づきの場になってほしいと願っています。

それでは、さっそくお2人のお話に移りたいと思います。

 

 

ブレント・エヴァンス 25年前、キャロリンと私は公園を散歩していました。その公園は長い間放置されていましたが、そのかわりツバメが休んでいる小川や、大きな杉の木がとても美しく、その度に私たちは感動していました。そしてそのことが同時に、ネイチャーセンターの始まりでもあったのです。

最初は小さなトレイルを作るところから始め、同時に全米各地のネイチャーセンターの事例を学びました。アメリカには大小合わせて100以上のネイチャーセンターがあって、ひとつひとつどれも違いますが、調べていくうちに、大きく分けて2つのことをしているということがわかりました。ひとつは、自然について教えること。もうひとつは、ネイチャーセンターという「場」としての体験を提供することです。ネイチャーセンターの多くは野外での様々なプログラムを提供し、環境倫理について教えています。「倫理」とは、未来を考えることです。

 

私は心理療法を学び、心にダメージを抱えた人の精神的なケアを行ってきました。鬱病や自閉症などの子どもたちを看てきましたが、自然の中に来ると、彼らの不安は和らぐのです。どうも自然というのは、ポジティブな雰囲気を与えてくれるものだということを目の当たりにしてきました。そのため、もっと多くの人たちを自然の中に招待して、自然を感じてもらうような活動を続けています。そう思うと、建物を建てる必要は必ずしもないでしょう? ネイチャーセンターの考え方は、私たちの思いにぴったりと当てはまるものだったのです。

25年経った今ではネイチャーセンターも大きく成長し、地域のたくさんの人たちが賛同してくれています。私たちは、地元の住民、ボランティア、行政関係者、政治家などと協力しています。ネイチャーセンターの取り組みは、共感を呼び寄せるということです。それは自然への共感、人と人がつながるための共感なんですね。そしてそれはひとりのリーダーがいたから実現したのかもしれません。ねえ、キャロリン。

 

 

キャロリン・エヴァンス 法然院は私たちに「静けさ」を思い起こさせてくれますね。ネイチャーセンターについて話すのに、これほど感情豊かになれる場所はないと思います。日本人はすでにすばらしい自然を持っていて、私は何か説得をする気はありません。ネイチャーセンターを始めるための必要なアクションについて話したいと思います。

ネイチャーセンターを始めるためにはどうすればいいでしょうか。まず最初は、アイデアと希望を持った友人を見つけることです。そして、おしゃべりし、コーヒーを飲みながら、一緒に楽しむこと。「楽しい」ということはとても大切なんですね。そうやって少しずつ、たくさんの人たちを招き入れていきます。先生や学生、ボランティア、生物学者、地域の人びと、コミュニティデザイナー、ランドスケープデザイナーなどと関わりながら、その人達と話を進めていく。木を植え、小川をきれいにし、いろいろなプログラムを一緒に活動していくこと。そして自然に再び息を吹き込んでいくことです。そのためには、人々を感情豊かにさせ、まとめていく素質を持ったリーダーが必要です。そうして初めて、具体的な計画づくりが始まるんですね。秘訣は、どんなにわからないことや知らないことでも、知っている人に聞くことです。いいプロジェクトには、多くの人たちも協力したいのです。そしてそれが一息つけば、楽しむことを忘れないで。音楽を聴いたり、ピクニックをしたり…。

 

ネイチャーセンターの取り組みが与えた影響は、コミュニティをつくり、環境への意識をつくるお手伝いをしたことだと思っています。このことは私たちのコミュニティにとっての希望であり、幸せなコミュニティをつくっていくことでもあると思います。なぜなら誰もが自然を愛しているし、子どもたちを愛しているからです。人びとがどの政治家を支持しているか、どの宗教に属しているかは問題ではありません。私たちは同じ自然の中で生活をしていて、そしてそれは私たちを幸せにしてくれます。

現在は新しいプロジェクトが進行中です。新しく土地を買い、持続可能な農園をつくろうとみんなで取り組んでいるところです。また最初から、始めたいと思っています。

 

 

 

自然と人を分けないということ

 

山口 ではここで山崎さんからコメントと問題提起をお願いしたいと思います。

 

山崎 亮 とっても興味深いお話をお聞きしました。最初に整理をしておくと、僕の軸足はコミュニティをつくる側ですね。エヴァンス夫妻は、自然をつくったりコミュニティーの人たちに理解してもらう立場。それぞれ軸足は違うんだけれども、非常に近いことをやろうとしているなという気がします。

僕のバックグラウンドはランドスケープデザインという仕事です。公園や庭を設計するような仕事ですが、ただただハードウェアとしての公園をデザインするだけでは、あんまりいい公園ができない。そこに住んでる人たちの参加がないと、出来上がった公園はみんなに使われないし、愛されないっていうことに気づくようになりました。そうして、公園をデザインすることからコミュニティを組織化していくことに興味が向いていったんですね。

そうやって最初に取り組んだのが、ユニセフパークプロジェクトでした。ユニセフと、日本の公園を作っている国土交通省が一緒になって進めたものなんですが、海外の子どもたちが日本に来て、日本の子どもたちと一緒に里山や森の中で遊び場を作っていくというプロジェクトです。遊び場を里山の中に作ること自体が遊びだという考え方でした。だから、その時僕がデザインしたものは何もないんですね。単に里山があるだけ。プレイリーダーと呼ばれる人たちを組織化して、そのプレイリーダーが子どもたちと一緒に森の木を切ったり、草を刈ったりしながら遊び場を作りました。

 

アメリカではパークマネジメントが非常に進んでいます。日本は公園を作ったらそれで終わりなんだけど、アメリカでは街の公園でも国立公園でも、マネジメントがうまく機能しているんですね。美術館や博物館に館長がいるように、公園にも園長のようなディレクターがいてもいいんじゃないかということ。サンフランシスコの国立公園にはChristy Fieldという公園があるんですが、そこでは公園のディレクターがいろんなプログラムをどんどん開発して、無料のものから15ドルぐらいのプログラム、それから3日間のキャンプなど、今では300種類ぐらいのプログラムを行っています。お金をみんなから集めて公園のマネジメントをしながら、自然を身近なものにしていこうとしているんですね。

そういうプロジェクトを日本でもやっていかないといけないと思います。コミュニティを集めたり、組織化したり、活性化していかないといけない。それをデザインでやっていこうとした時に、公園以外のいろんな場所でも、コミュニティデザインっていうものができるんじゃないかって思ったんですね。例えばデパートや大学、商店街なんかでも、そういうことが必要になってくると思います。

だから僕がいろいろやってきたことのルーツにはネイチャーセンター的な考え方がやっぱりあって、街にある公園にちゃんと自然を取り戻して、そのなかで地域の人たちがいろんなことを学んでいくような場は、コミュニティをオーガナイズするためにもすごくいい場なんですね。

日本はこれから人口が減っていって、街の中に空いた空間がいっぱい出来てきます。その時にその空間を、みんなが集まって自然のことを理解して、自然と人、人と人が相互に共感するような場所をつくっていくことは、もちろんできることだと思っています。

 

 

山口 今日は法然院というとても素晴らしい場所を提供していただきましたが、こちらの貫主の梶田さんからもお話しいただきたいと思います。

 

梶田 真章 今日はご参加いただきましてありがとうございます。元々この法然院の方丈は、今から四百年前に京都の伏見にあった天皇のお嬢さんのお住まいを、三百年前にこちらに頂いたものです。その間、いろんな方の思いで守られてきた建物だと思います。この場に来ていただくだけでも、ネイチャーセンターということの意味は少しでも感じられるんじゃないかと思います。

私がこの20年間ずっと言い続けてきたことは、日本語の「自然」という言葉の不思議さです。「自然」とは一体何を意味してるのかが、人によって違っているんじゃないかと思っています。さっきも「自然と人」っていう言い方がありましたけど、私はこの言い方を好んでおりません。「自然」と言ったときに、そこに人間も入ってるのか、人間は入ってないのか。人間も生き物も除いた空間のことを「自然」と呼んでいるのか。だからその時その時で、人は「自然」という言葉を自分の好みで便利に使ってきたと思うんです。

私の中では、「自然」っていう言葉は何かモノを意味するんではなくて、生き物どうしの支え合いの仕組みのことを言うんじゃないかと思ってます。だから私も、その仕組みをうまく動かしていくひとつの存在として生きていければいいなと思っています。

そしてそういう仕組みを感じるところ、それがネイチャーセンターなんだと思います。人が自然を感じていく中で、それぞれがネイチャーセンターになって、この世界の中でどう生きていくのかってことを感じていける。そんな「場」がいろんなところにあったらいいなと思います。それが、「場」としてのネイチャーセンターなんだと思います。いきなり難しいことを言うつもりではないんですが。

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