ネイチャーセンターと環境教育
山本 幹彦(当別エコロジカルコミュニティー代表)
感じたことを分かち合うこと
じゃあ、どうしてネイチャーセンターなんだろう。
テキサスのネイチャーセンターの方たちが言っているのは、3人の講師の方たちと同じように、今、私たちの
生活は自然や人との関わりが希薄になっているということです。そういう関わりが遠くなるに従って、五感で
ものごとを捉えるのではなく、頭だけで理解してしまう。頭ではわかるんだけれども、身体はついて行ってい
ないという感じです。今はまさにそれを象徴するような効率性を重視した社会で、自分の時間がなかなか持て
ない。そんな中で、今の私たちは直接体験が非常に減っているんだろうと思います。
私は学校教育の一環として、道民の森での自然体験のプログラムを実施しています。だけど、「自然体験は遠
くの森へ行かないとできないの?自然体験の時間を作らないと自然体験ができないの?」と思ってしまう。そ
んなところまで自然が遠ざかってしまっているんです。そんなときに私がいつも戻っているのが、レイチェル
カーソンが書いた「センス・オブ・ワンダー」なんです。
私たちが起こしている環境問題、それを解決するのに頭で物事を考える以上に、みんなの中にある感覚を研ぎ
澄まして、身の回りのことをもっと感じていくことが大事だと思います。そんな、誰もが生まれながらに持っ
ている環境へのセンスを育てていくためには、「知ることよりも感じること」。あまりにも今の大人は「知る
知る」と言い過ぎじゃないですか。さらに、感じると同時に、その感じたことを分かち合ってくれる大人が必
要なんです。ただ単に子どもたちと自然の中に放りだして、遊ばせているだけじゃなく、共感してくれる、わ
かってくれる大人。そういった分かち合える人と一緒に、子どもたちを自然の中に連れて行くことが大事で、
レイチェル・カーソン自身も環境保護の仕事に就くきっかけを問われて、幼いときの母親と一緒に過ごした自
然の中での体験を答えているんですね。そのときの自然をいつまでも残したいという思いから、それがエンジ
ンになって、「サイレント・スプリング」も「センス・オブ・ワンダー」も書いたんだと。それは一人の自然
体験ではなく、誰か大人がいつもそばにいるんですね。「センス・オブ・ワンダー」(神秘さや不思議さに目
を見はる感性)というのは、何か特殊な体験をしたり、誰かに教えてもらったりして身につけるものではなく
、誰もが生まれながらにして持っているんですよということなんですね。
あなたの子どもには自然が足りない
私たちが自然と遠ざかっていく中で、子どもたちの自然体験が減っている。頭だけで物事を考えている。そん
な中で、おもしろい本が一冊出ているんですね。リチャード・ルーヴの「あなたの子どもには自然が足りない」
(原題:The Last Child in the Woods)という本で、その中に「自然欠乏障害」という言葉が出てきます。今、
小学校の先生たちは切実ですよね。1クラスにADHDといわれる多動の子どもが、多いところでは2~3人い
たりします。実はこれ、日本だけではなく世界的な傾向です。著者はアメリカのジャーナリストで、世界規模
で起こっている子どもたちの異常を調べて、行き着いた結論が自然欠乏障害なんです。多動の子どもたちには
薬も病院もカウンセラーもいらない。都市化の結果なんだということですね。
ネイチャーセンターブックの著者の方も、同じようなことを動物園の動物に例えて話しています。ライオンの
ような動物を檻の中、つまりストレスのかかる状態に置くと、攻撃的になり、落ち込みやすく、食べ物を独占
し、病気への免疫力が低下してしまい、子どもに対して育児放棄や虐待をするようになると言われています。
これは動物園の例ですが、同じことが私たちの子どもにも起こっていると、先ほどの本に書かれているんです
ね。外に出ずに建物という箱の中に閉じこもってしまうと、ストレス状態におかれて、非常に原始的で幼稚な
行動をするようになる。それを大脳レベルで説明すると、脳幹部分の反応なんですね。ですから、人ってスト
レスがかかる状態に置かれると、非常に幼稚で原始的な反応をしながら、自分を守ろうとする。そういう傾向
があるんですね。
じゃあどうすればいいのかというと、脳幹部分ではなく、前頭前野の脳を発達させればいいということです。
ここにはワクワクする体験、好奇心や楽しみ、喜びや達成感という感情によって脳内活性ホルモンが活発にな
り、脳の中の細胞どうしが結びついていくんですね。ストレスがかかった状態で、そういった体験がないとこ
れらのホルモンが分泌されず、だんだんと鬱になってしまう。前頭前野は長期的な視野で物事を考えたり、自
分以外の他者について考え、相手をいたわる、そういったことを司っています。大脳生理学の先生によると、
最近の研究からどうもそんなことが言えるようです。また、脳細胞は20歳を過ぎると減っていくと聞いてい
ましたが、歳をとってもワクワクする体験や達成感、見つめ合ったりスキンシップをとったりすると、いくつ
になっても脳は発達すると言われています。そんなこともわかっているんですね。
でも、よく考えてみると、私たちは「環境のことを考えましょう、自然を守っていきましょう、持続可能な社
会をつくっていきましょう」と言うけれど、長期的な視野で物事を考えることが出来ないことには、こういっ
たことも考えられないんじゃないか。いくら頭で環境は大切だと、今世紀の末には地球の気温が最大6度も上
昇すると言われていますが、そういった時にどういう状況になるか想像できないんじゃないかと思います。私
たちは都会に住んでいて、忙しい毎日を過ごしていて、ストレスがかかっていると長期的なスパンで物事が考
えられずに、常に現実的で幼稚で目先のことしか物事が考えられない。そういう思考回路では環境教育をして
も無理なんじゃないのかなあと、最近考えてしまいます。1972年にストックホルムで地球サミットがあり、そ
れからずっと40年以上、「協力して解決に当たりましょう。もっと行動を変えていかないと。」と同じこと
がさんざん言われ続けていますよね。
その中でも一部の人は、もう一度私たちの頭じゃない感覚を使った体験を大切にしています。自然の中での体
験というのは自然を好きになって、自然を守ることだけじゃなく、自分の中の自然性を復活させていくという
効果があるんじゃないかと私自身注目しています。
以前北海道大学におられた澤口先生が同じように、子どもの成長と前頭前野の発達についての研究をされてい
ました。前頭前野は3歳から8歳ぐらいの間に急激に発達するんですね。でもその後は発達が止まるのではな
く、ゆっくりと発達し続ける。じゃあ、3歳から8歳の間にどういった状況をつくってあげると前頭前野が発
達するのかというと、不安定な状況が良いと言うんですね。都会の平坦な場所ではなく、変化のあるところ。
地面がデコボコでだったり、風が吹いてきたり、生きものがやって来たりとか、自然の中ってまさに不安定で
しょう。そういう中で適応しようとして、子どもたちは前頭前野を発達させていくんです。それともう一つ不
安定なものがある。人との対応です。人っていつも不安定でしょう。同じことを言っても、いつも同じように
返ってくるとは限らないですよね。人の目の色だとか、表情などを見ながら適応させていきますよね。そうい
う状況に3歳から8歳くらいの間に置いておくと、非常に前頭前野が発達するとおっしゃっていました。同時
に、スキンシップや達成感ということを体験していると、人への思いやりが発達していくということなんです。



『センス・オブ・ワンダー
レイチェル・カーソン 著
上遠 恵子 訳 (1996)

『あなたの子どもには自然が足りない』
リチャード・ルーブ 著
春日井 晶子 訳 (2006)