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環境の村エコセミナー2013 「地域に根ざした環境教育」

地域での環境保全活動に参加することが大切だといわれていますが、地域やコミュニティー自体が崩壊する中、地域の再生としてのコミュニティデザインが注目されるようになってきました。

そこで、もう一度地域の環境をベースに、4つのテーマについて学んでみます。

第4回「ネイチャーセンターと環境教育」

ネイチャーセンターと環境教育

山本 幹彦(当別エコロジカルコミュニティー代表)

ネイチャーセンターとは、どのようなものでしょうか。

国立公園などに行くと、人里離れた場所に誰もが目を見張るような素晴らしい自然が広がっていて、近くにはその場所の自然や歴史などを細かく紹介してくれる施設が設置されています。そこには小さなレストランがあったり、おみやげを買うこともできるかもしれません。

ここで紹介するのはそういった施設のことではなく、自分たちの日常の中で、身近にある自然を楽しむための「地域に根ざしたネイチャーセンター」です。環境について熱心に活動するナチュラリストも、単純にゆっくり楽しみたい人たちも一緒に、互いに集まって、自然の中でプログラムをしたり、コンサートを開いたり、自分の菜園で野菜を育てたり…。そのようなアメリカ・テキサス州のネイチャーセンターの事例を紹介しながら、地域のコミュニティの拠点としてのネイチャーセンターについて考えてみます。

 

 

 

 

 

みんなでつくるネイチャーセンター

 

まず、「ネイチャーセンター」と聞いてどういった施設をイメージされるでしょう?

北海道には「ネイチャーセンター」という名前がついている施設がいくつかあります。一定のエリアの自然を

守り、そこに中心的な施設を作って、一般の方々に来てもらうような施設ですね。「自然体験基地」というよ

うに、観光客がやってきてサイクリングをしたり、歩きながら周辺の自然を楽しむための施設という役割もあ

ります。また、株式会社が運営しているアウトドアクラブを総称して「ネイチャーセンター」と名付けている

ところや、森林セラピーのための森が「ネイチャーセンター」という名称を使っている場合もあります。

それ以外に、「ビジターセンター」という名称の施設があります。ネイチャーセンターを調べていくうちに、

同じような意味合いでビジターセンターという呼び方があることに気づきます。アメリカでは、自然公園の中

心施設をビジターセンターと呼んでいて、ネイチャーセンターは周囲のエリアのこととして使い分けていると

いう説明を聞いたことがあります。

 

どうしてこんなことに興味があるかというと、アメリカでこんな本が出版されたんですね。「The Nature

Center Book」。副題に「地域に根ざしたネイチャーセンターの作り方・育て方」と書いてあったんですね。

私も毎年のようにアメリカに出かけていて、いろいろなネイチャーセンターを見てきて関心があったので、こ

の本を書店で見つけ、これはおもしろそうだと思って、ぜひ翻訳してみたくなったんですね。著者に連絡をと

ってテキサスまで飛んで行き、話をつけて帰ってきてから日本語で出版するまでに10年かかってしまいまし

た。日本語版では副題を「あなたのまちの自然を楽しむために」としたのですが、余暇や福祉なども含めて、

地域の自然を生かした魅力あるまちづくりをしていこうという意味合いなんですね。

なによりこの本がおもしろいなと思ったのは、著者の紹介のところに「私は植物不適応と呼ばれる学習障害の

ようなものを持っている」と書いてあったんですね。植物の名前を覚えることが苦手で、専門用語がともかく

頭に入らない。でも自然は大好きで、自然を心から楽しんでいるだけ。そんな人がネイチャーセンターのディ

レクターとしていろんな事例を紹介しているところから、これはおもしろそうだなと思ったんです。

ネイチャーセンターやビジターセンターは自然の中にありますよね。でも、私にとってはハードルが高かった

んです。私も若い頃から山登りをしたりすることは好きなんですが、なかなか花の名前が覚えられない。いく

ら言われても鳥の名前が覚えられない。そうなると、自然の中に入るのは好きなんですが、こういった施設に

行くと、鳥の名前がいっぱい書いてあったり、花の名前がいっぱい書いてあって、専門の人たちがいっぱいい

て、何となく、楽しみに来たんですが「・・・」という雰囲気なんです。でもそうじゃなくって、おもしろい

人たちがネイチャーセンターの本を書いたもんだなあと思いました。

 

 

この本の著者の2人はアメリカテキサス州にあるシボロネイチャーセンターを運営されていますが、そのスタ

ートは身近な自然を守りたい、人の集まれる場所がほしいとというところからでした。近くにはきれいな川が

流れていて、湿地もあり、そこに鳥がやってきたりとなかなか良い場所なので、ここをみんなの憩いの場にで

きないだろうかと考えました。そしていろいろと知り合いに尋ねてみると、ある人から「自分の家を使ってい

ないから使ってもいいよ」と言われ、トレーラーで運んできてネイチャーセンターをつくったんですね。そん

なところからはじまり、みんなでその家を直したり、トレイルを作ったり。そうすると少しづつ良い場所にな

ってきて、子どもたちを集めてプログラムを始めるといろんな人が加わってきて、今でも自分たちで管理しな

がら、そしてたくさんの人を巻き込みながら活動を行っています。

地域の人たちがたくさん集まってくることで、コンサートを開いたり、学校プログラムを行ったり、家族のピ

クニックの場所になったり、20年かけて少しづつ成長していきました。私がはじめて行ったときは2003

年でしたが、こんなに立派じゃなく、その後の10年間で多くの人に使われるようになっていったんですね。

 

 

こういうところはなかなか日本にはないんですね。先ほどのネイチャーセンターやビジターセンターにしても、

そのほとんどがまちの外の人たちに来てもらって、自分たちの町の自然を見てもらう。特に珍しい自然がない

とネイチャーセンターにならないのかと、そんなことも思ったりもしていました。

 

国や自治体で作るネイチャーセンターと、シボロネイチャーセンターのような地域のみんなでつくるネイチャ

ーセンターの比較をしてみました。公的な施設は計画的に作ってありますが、みんなでつくるネイチャーセン

ターはまず情熱だと言うんですね。情熱を持った人が2~3人いればネイチャーセンターはつくれるんだと書

いてある。

資金はどうするかというと、国や自治体で作るネイチャーセンターは行政の予算を確保して税金で作ります。

みんなでつくるネイチャーセンターは寄付だけです。スタートして組織を作ると会費ですね。ただ、アメリカ

と日本との違いは税制であったり、寄付に対する意識が違いますね。

集まる人。自然が大好きなナチュラリストだけじゃなくて、普通に自然の中で遊びたい人、楽しみたい人が気

軽にやってくる。そのためにコンサートをやったり、ファーマーズマーケットをやったり、いろいろな人たち

が来れるような工夫をしています。

施設は日本もアメリカもそうなんですが、国立公園などのビジターセンターに行くと非常に立派な展示物が備

わっていて、でもどこへ行っても同じ仕掛けだよね、というような感じで。そういう展示が多いのですが、み

んなで作るネイチャーセンターはどれも手作りです。地域の人たちに地域の自然をみてほしい、その工夫が実

に上手にされている。展示だけではなく、ハートがあるというんでしょうか。

目的として、国や自治体のネイチャーセンターは自然を好きになってもらおうと、また、自然体験をしてもら

おうということなんですが、みんなでつくるネイチャーセンターは自然というフィールドは使うのですが、人

が集まるコミュニティをつくろうとしているのかなと思います。

運営について、国や自治体のネイチャーセンターは直営であったり、委託であったり、委員会を開いてそこに

有識者の人たちが集まってきて、そこでお墨付きを得て運営していく。そうじゃなく、地域の当事者の人たち

が自分たちでマネジメントしていくことが大切なんじゃないかなと思いますし、それを運営していくのは地域

の人たちで作る理事会であったり、評議委員会だったり、NPO法人という形をとっているということですね。

 

そこには、有識者だけではなく、実際に活動している人たちが集まってくるというスタイルを取っていると思

います。

自然がある場所に位置していて、生物の多様性や環境の大切さを伝えるということが主にあって、そこにコミ

ュニティの当事者の人たちが集まってきて、自分たちのコミュニティの価値を新たに作り出していくような、

それぞれの関係性をつくり直していくような意味合いがあるのかなと思います。そういう意味で、今回のセミ

ナーで取りあげているコミュニティデザインということがキーワードとなり、一方的なスタイルではなく、自

分たちが当事者として、自分たちの町で、自然環境も加えた自分たちのコミュニティーのあり方を自分たちで

つくっていく。そういう違いがあるのかなと思います。

『The Nature Center Book :

How to Create and Nurture a Nature Center in Your Coomunity』(2004)

Carolyn Chipman Evans / Brent Evans

『ネイチャーセンター

あなたのまちの自然を守り楽しむために』

田畑世良 訳 / 山本幹彦 監訳 (2013)

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