環境の村オンラインエコサロン2022
【Stockholm+50】を前に、スウェーデンの取り組みから考える持続可能な社会
レーナ・リンダルさん(スウェーデン・ウプサラ在住、環境案内人)
② スウェーデンの市民社会と教育:社会を形づくる市民の役割
山本:レーナさんの話を聞いて、市民が社会を変えていくということがスウェーデンの特徴のような気がしました。国内と国外の消費という話がありましたが、日本は食料自給率がカロリーベースで37%なんですね。そうした時に、輸送も含めて消費ベースで考えないとダメだなと思いました。
私も少し日本の実情について少し話をしたいと思います。50年前のことは実感としてはありませんが、その頃には水俣病に代表される公害問題があり、企業と市民が対立していました。また、自然保護運動が活発になっていたタイミングでもあります。その後、対立から協同、パートナシップへの流れになっていきます。また、COP3が京都で開かれたわけですが、私も当時京都に住んでいて、いろんな活動をしていました。高校生に集まってもらって、高校生の考えをCOP3の会議に持っていけないかということをしていました。
先ほども話がありましたが、日本は市民社会が弱いということで、市民と企業と行政、この3者がどううまく連携できるかが問題だと思っています。しかし、日本の場合は風力発電などの技術面でも、企業が率先して進めてきたんですよね。その前には排ガス規制があり、世界をリードしていたこともありました。そういった中で行政がCOP3を開催したという流れがあったんですが、どうもなかなか市民が弱い。そういったところから、スウェーデンの市民・教育についてお話を伺おうと思います。
レーナ: 私がどうしてスウェーデンの市民を信じているのかということを、エネルギーを例に話をしたいと思います。
去年、スウェーデンの北部に行ったときに、そこにある大きな水力発電所を見に行きました。スウェーデンは水力発電に頼っていて、電力供給の半分くらいを水力で賄っています。この発電所が完成したのは1951年ですが、当時はまだ環境保護運動が始まっていない頃で、産業として自然資源を開発して福祉国家を作ろうという時代でした。自然保護団体もまだ生まれてなかった頃です。
それが、後になって人々が気づいて、スウェーデンの大自然をどこまで破壊していいのかと疑問を持ち始めました。市民運動を起こして川を守ろうとしたんですね。その長い努力の結果として、スウェーデンの環境法典というものができ、スウェーデンの大きな川4本ほどが開発されずに保護されるようになりました。先ほど、水力発電は今後も増えていかないと紹介したのはこのためです。国会が環境保全という形でこれらの川を守ることを決めています。そしてこれは市民が起こしたことです。
もう一つは原発をどうするかということです。スリーマイル島の事故が起こった時に、市民が疑問を持って反対運動を起こしました。その当時私は18歳くらいでした。若者の社会意識で言えば、この反対運動が政治的な目覚めだったんですね。この写真は1980年に私が初めてデモに参加した時の様子です。この中のどこかに私もいます。こういうふうに人が集まって、原発を廃止したわけではないけれども、世論が生まれていきました。
これは原発に関する世論ですが、赤い線が廃止、青い線が推進です。世論がなかなか片方に行かないんですが、原発を使おうということにもならないし、すぐに廃止ということにもなかなかならなくて、原発は進めにくいという形になっています。そういった方針にも、市民が非常に関わっているんですね。
今起こっていることとしては、去年の末に新しい政権ができて、その産業大臣がいきなり「鉱山が大好き」と言いだしました。この大臣はすごく感じの良い方なんですが、鉱山のことを心配している人がドキッとして。その鉱山の開発で今注目されているのが、北部にあるヨックモック(Jokkmokk)の町の近くなんですね。ヨックモックの冬のマーケットは400年以上続いていて、日本でもよく知られていると思うのですが、その近くで鉄鉱山を開発しようという計画です。新しい産業大臣がもうすぐ許可を出すというようなことを言ったので、反対している人たちは気になっています。そのあたりは、先住民のサーミがトナカイを育てる場所として昔から使っている土地なんです。そこで、鉱山を開こうということに対して、サーミの人たちが反対しました。これはもはや地方の小さな問題ではなくなってきて、多くの人たちが彼らをサポートしたり、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg )も先日、サーミの若者と一緒に反対運動に加わりました。
温暖化対策のためには今まで以上に金属類が必要で、そのための鉱山も必要だと政府は主張しています。一方、それは自然破壊で一定の期間しか使用できない限られた資源だと言っている人もいます。ヨックモックは人口がずっと減っているので、地元の人たちにとっては雇用が必要だから鉱山を作ってほしいという声もあります。みんなが合意できるような、持続可能な発展を目指そうとスウェーデン政府が考えている中で、こうした対立が起こっています。
今、市民は目覚めようとしているところだと思いますが、風力発電とか、新しい産業とか、鉱山を増やすとか、消費活動はこのままでいいのかとか、そういった課題がさまざまあるなかでも、私は昔の水力や原発のときのように、みんなが議論し合ってなんとか方針を決めていくんじゃないかと思っています。そういう意味で、私は市民を信じているんですね。
50年を振り返ってみると、今話したような流れになりますが、じゃあこの先の50年を考えると、例えば今19歳になったグレタは69歳になる頃です。先ほどの鉱山は長くても24年ぐらい持つという話になっていますが、そういう見方をすると確かに短いですよね。ですから、50年先を考えてみるのは結構良いことで、想像してみることが大事だと思います。
私は今、スウェーデンではこれから選挙もあって、市民がどういう方針を決めていくんだろうかと、とっても楽しみにしているところです。日本も選挙がありますよね。
日本についても、今は環境に関していろんな問題が起こっています。50年というスパンで考えると、社会全体で考える必要がありますね。
なぜ私が選挙、選挙と言ってるか。日本では選挙があっても変わらないんじゃないのと言われていますが、スウェーデンでは全然そんなことないんです。スウェーデンは高い投票率でも有名で、これは2018年までのデータですが、2018年の総選挙の投票率は87%以上でした。原発の国民投票も75%が参加したので、これによって国の方針がかなり決まります。これは日本のように選挙に行っても何も変わらないという雰囲気とは全然違って、ガラッと変わることがあるということです。
教育でいうと、スウェーデン市民の高い投票率は、一緒に社会を作ることを期待されているからです。そのための教育ですよね。国のあり方が気になるなら参加すれば良い。スウェーデンの市民はスウェーデンの将来を作る責任を一人一人が持っているんです。教育はそういう目的で行われていて、18歳になると社会に出ていろいろなことに関わるということです。
例えば、自然学校では自然のことを学ぶと考える人が多いと思いますし、あるいは私たちが翻訳した「野外で算数」の本のように、算数や英語や国語を外で学ぶこともあります。ただそれだけじゃなく、自分の意見を主張すること、議論をすること、社会に関わって一緒に社会を作っていくことも自然の中で学ぶことができます。ニュネスハムン自然学校(Nynäshamns Naturskola)では、高学年の子どもたちを対象に、近くの土地について、今スウェーデンでは住宅が足りないから自然の中に住宅を作るべきなのか、それとも自然保護区にすべきなのかとというテーマについて、それぞれに立場を与えて、議論の練習をするといったこともしています。
他には、スウェーデンに住んでいる住民の20パーセントは国外で生まれていますので、スウェーデンは非常にいろんな文化が混ざっている社会です。50年先を考えたら、これまでの50年でスウェーデンの社会を作ってきた歴史、市民運動や環境教育といったすべてのものを、新しい世代や新しいバックグラウンドを持った人たちにも伝えていかないと続いていかないですよね。
なので、自然学校でも自然との関わり方を学ぶのと同時に、そういった人の多様性や考え方、お互いの理解といったことも学んでいるということです。 なので、スウェーデンの教育の中で、環境教育やサステナビリティのための教育のとても大事な要素のひとつは、やっぱりそれぞれの市民が責任を持って社会づくりに関わるための知識を身につけること、そしてそのための道具を持つことです。18歳で選挙権を持って大人になるので、そこが目標で、それまでに一人の市民として教育していくことが大切です。
教育で言うと私は民主主義教育を強調したいと思っています。自然保護運動にしても、これからのエネルギー問題をどうするのか考えるためにも、そしてそこにみんなが関わるためにも、そのための教育が必要です。その部分を強調して終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
主催:北海道 / 企画・運営:NPO法人 当別エコロジカルコミュニティー
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【ご案内】
6月2日- 3日にストックホルムで行われる〈Stockholm+50〉に向けて、日本のスウェーデン大使館で〈プレ・ストックホルム+50 ユース会議〉が開催されます。
詳しくはこちら:www.swedenabroad.se/ps50y
案内動画:twitter.com/embswetokyo/status/1504399669081870344?s=21